節約たまき本まき。世の中寸評記。

考える、ありふれた建売戸建にて。

『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(本)

 学生のとき、阿佐ヶ谷に住んでいた。パールセンターという商店街を入ってすぐのところにあるワンルーム。初めての一人暮らしだったので、とにかく安全そうなところ、というので紹介された。商店街は、こじんまりしていたが、寂れてはいなかった。「お布施栗らくがん」を売っている駄菓子屋、「パンの耳」をただでもらえるパン屋、マニアックなアルコールを小瓶で売っている酒屋。型落ち品だらけの電気屋。昔ながらの店が、わざとらしいレトロ感を売りにしたりせず、ただ普通に存在していた。空元気な飲み会の後も、ゼミの討論の後も、阿佐ヶ谷の駅に降り立つと「ほうっ」となったものだ。銭湯の湯船に入る感じだろうか。25年前のことだ。

 この本はそんな空気を思い出させてくれた。阿佐ヶ谷姉妹が二人で住むようになった経緯、なんてこともないのに笑える日常。姉妹の文章が交互に載っていて、視点のディープさが次第に度を増していく。ありがたいご近所さんのお話なんかも入りつつ、やはり、ただの「ほっこり系」ではないのであって、それでこそ阿佐ヶ谷姉妹なのだ。「のほほん」は「のほほん」でも、うっすらと気持ち悪い「のほほん」なのである。

 

阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』

著・阿佐ヶ谷姉妹

出版社・幻冬舎